宗像剛ブログ

2017.11.28

No,10 鎌先温泉『湯主一条旅館』

社長ブログ

 

鎌先温泉・国登録有形文化財(2016年3月指定)【湯主一條旅館】

半世紀も昔、父の連れられての記憶は山奥の大きな木造の温泉旅館、湯治を楽しむ大人の空間で、子供心に残る記憶はありませんでした。
一條さんは1428年開湯、現当主で20代目だそうですが、時代の表層の流れに応じて木造本館を取り壊しホテル建設を考えたそうですが、踏みとどまり、手の届く細やかなお客様目線の求めに応えるスタイルから始め、木造本館の一部を個室料亭にしたところ、好評を博し2008年に全てを個室料亭に変えたそうです。かつて多くの人を迎えた古い豪壮な木造の館は新たに息を吹き返し、訪れてみたい魅力の宿に生まれ変わりました。

時流と表層・乗り遅れる勇気

高度経済成長期、福利厚生にも目が向けられ、お定まりの観光地巡りと宿泊宴会、何処の温泉地でも金太郎飴のようなメニューを提供しても、さしたる不満は聞かれず潤いました。
同時にわずかな農閑期に溜まった疲れを癒し、次の作業に立ち向かう英気を養う「湯治」は少なくなりました。3階建ての巨大な本館、長い廊下、延々と続く座敷、プライベートは充分保たれているとはいえず、複数の宴会場を備えて効率の良いサービスの提供には不具合も多く、戦中の統制の時代、自家所有の山から切り出した木材を地元の匠が技を奮って築造し、訪れた幾多の人と「時に磨かれた」本館も輝きに影が差すようになってきました。
少し頑張れば手が届く、自ら求めるものを目指すのではなく、ぶら下げられたメニューに飛びついて、ひたすら享受する。そんな時代は長くは続きませんでした。
時代が歩幅を狭めた時、停滞し立ち止まった時、人は真の嗜好に気が付きました。20代続く御当家の先代様も現御当主も『お客様が心から求めるものとは』『心をくみ取りどのようにお応えするか』
20代に渡って人と時代を見つめてきた【湯主一條】は包み込む環境から滞在空間、食に至るまで、あくまでもお客様本位で描き切った物語をお示しし『一條の森が織りなすストーリー』は見事に受け入れられたのです。
玄関に続く坂道を行く

日本の美の神髄
私の前を案内に従って進む外国人のご夫婦がいました。
彼らは興味深げに辺りを見回しながら、湯殿のロビーを過ぎ時の橋を渡りながら目に飛び込む木造の本館に歓声をあげました。
長い廊下は素通しのガラス戸窓に面して十分すぎるほど明るいのです。そこに続く沢山の部屋、自分達をどんな体験が待ち受けているのか期待の高まりが伝わってくるようでした。
ふと彼らの視線を追うと、階段下や天井の隅に潜むほの暗さに何かを感じているようでした。しばらく佇み、ふと考える様子。
『中々伝えられないものが偶然伝わったのではないかな…。』私はそう感じました。
始終明るい部屋に身を置いて私達は充分なやすらぎを得ることが出来るでしょうか?
薄暮の中でまどろむ心地良さ、少し明かりを落とした部屋で杯を傾ける時の色香はどうでしょう。
暗さは五感を研ぎ済ませます。視覚は表情に平素とは異なる魅力を発見し、食膳を前にすれば普段気付かない塗の美しさを再認識し、聴覚はかすかな虫の音、水音まで心地良くとらえます。
陰影、陰陽にこそ日本の美意識があり、語らずとも伝わるメッセージがあるのです。
湯主一條はそんな境地に到達しつつあるのかな、そんな思いがしました。
時空の昇り降りの階段の表情階段の裏には湯治宿の名残の下駄箱が…廊下と部屋を仕切るのは障子一枚磨き抜かれた廊下

人の魅力

若い女性スタッフ。到着から出発まで4名の方のサービスを受けましたが、基本はしっかり学びながらもお客様の為にどう応え、自分の表現にもこだわる、その前向きな姿勢が気持ちよく伝わりました。さりげない会話の中で知り得たお客様の個性、スタッフが共有すべきことは見事に伝わっていました。おそらく裏方で働く皆さんも同様なのだろうと感じました。

この宿にしてこの女将あり
是非、お話したいものだと思っていましたが、帰り際にお見送りの御挨拶に来て下さいました。青森県のご出身で御縁があって鎌先温泉『湯主一條』の女将に…。二十代目女将・一條千賀子さん。
にこやかにお話される女将は歴史に敬意を払い、足元を見つめ、歩みを続ける人でした。
アンテナはいつも高く、溢れる興味を追い続ける人、若い芽を・気づきを大切に育てる手腕がうかがえます。とても慕われる女将です。
一條は勿論、鎌先温泉愛はひとしおです。地域の力を纏める力にこれからも注目です。
二十代目女将と好青年和田さん


A型フォードの独り言

湯主一條はOld is beautiful !と謳います。
1931年生れの僕もこれでなかなか伊達者(ダンディー)でしょう?農夫姿のオーナーもいましたが、そんな彼らも時にはめかしこんでタキシード。どこへ行くにもお供したものです。
そんな機会がこの国でもあるかな?

点灯した僕もOld is beautiful !

様々な思いを感じることが出来た素晴らしい機会でした。写真は玄関へのアプローチ。
一條さんのストーリーにより深みを加えるような可能性がありますね。
皆さんとの出会いに感謝します。
今回頂いた糧を私もお客様にお伝えしていきます。